それは泡沫
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奏多殿は私の予想通り、何とも言葉では現しがたい悲しみに満ち溢れた表情を浮かべた。
彼女のそんな顔を見る私も辛い。
嘘だよ、と笑って言えたならどれほど楽か。
しかし過ぎた時は、どうやっても取り戻す事が出来ない。
どれほど願おうとも、私が人に戻る事は叶わないのだ。
私に許されたのは、怨霊として苦痛と共に世界に留まる事。
ただ、それだけ。
ああ、でも。
たった一つだけ。
たった一つだけ、良かった事がある。
私はまだ、君の側に居る事を許されている──
それすらもいずれ許されなくなるのだろう。
君から情け容赦なく、引き離されるその日が。
私が先の言葉を紡げずにいると、奏多殿は曖昧に笑った。
「そうじゃないのかな、って、何となく分かっていたんです。私、やっぱり神子だから……でも、疑問を確証に変えてしまいたくなかった……」
私を掴んだままの奏多殿の手は、可哀想なくらいに震えていた。
きっと彼女は悲しんでいるんだろう。
怒りを自分の内に抑え込むのに必死なんだろう。
自分の無力さを呪って。
彼女は、そういう娘なのだ──
そして彼女は白龍の神子とは異なるが、怨霊を浄化させる力を持っている。
私は彼女の能力によってのみ、救われるのだ。
この浅ましい呪縛から。
「奏多殿……」
私が彼女の名前を呼ぶと、奏多殿はいやいや、と何度も左右に首を振った。
あまりにも勢い良く振るものだから、彼女の艶やかな長髪が乱れてしまっている。
「奏多殿、落ち着いて。ほら、貴女の綺麗な御櫛が乱れてしまっているよ」
「……」
奏多殿は押し黙ったまま、私の腕を決して離すまいとしがみついてくる。
この娘は、一体どこまで優しいのだろう。
それ故に、いつだって誰よりも傷付いている。
その繊細な心を、ずっと守っていこうと誓ったのに。
今こうして、私自身が一番彼女を傷つけている。
望んで“こう”なった訳ではない。
それでも今のこの瞬間が、抗いようのない、現実、なのだ。
優しく髪を撫でてやれば、彼女は今にも泣き出しそうな表情で私を見上げてくる。
大きな薄紅(ウスクレナイ)色の瞳に、今にも零れ落ちそうな涙の雫をいっぱいに溜めて。