それは泡沫
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彼女──奏多殿は私に触れようと手を伸ばす。
しかし、私は機敏な動きでそれを躱す。
彼女に、触れられる訳にはいかないのだ。
私はもう、人ではないから──
それを彼女に知られる訳にはいかないのだ。
私が怨霊として蘇ったと知ってしまったら、彼女はまた独りで業を背負おうとするだろうから。
私が後ずさった事で、彼女は眉根を寄せ、悲しそうな顔をする。
そんな顔をさせたくはないのだけれど仕方がない。
これは、私の弱さが導いた結果なのだ。
今になって漸く敦盛の気持ちが分かる。
私の大切な弟が、日々どんな思いを抱えて生きてきたのかを。
“苦しい”
なんて言葉では、きっと片付けられない。
「経正…さん……?」
「ああ…そんな顔をしないで。少し体調が優れないみたいだ」
嘘では、ない。
満月の夜が近付くと、何故か体調が悪くなる。
それが私が怨霊である事とー関係しているのかは分からなかったけれど。
「心配はいらないよ。ゆっくりとしていれば、きっとすぐに良くなる」
私は何とか笑顔を作って、奏多殿の疑いの目を反らそうとする。
彼女はとても聡い娘だ。
ほんの少しの隙であっても、命取りになりかねない。
私が早々にその場から立ち去ろうとすると、彼女は目にも留まらぬ速さで私の腕を掴んだ。
まさかこの状況で、そのような行動に出るとは思いもしなかった。
拙い、と思った時には、時既に遅く、彼女の手は私を捕らえていた。
「……っ!!」
彼女は息を呑む。
だが、私が予想していた驚き方とは若干異なっているようだった。
信じられない。
ではなく。
やっぱり──
彼女はそんな表情を浮かべた。
「奏多殿…貴女は、まさか……知っていたのですか──?」
情けなくも、何とか絞り出した震える声。
だが目の前で私を真っ直ぐに見据える彼女は、全く動揺を見せなかった。
それは即ち、肯定。
彼女は知っていたのだ。
私が既に人ならざる存在である、という事を──