目に見えぬ絆を胸に
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
遠い昔の日のことなのに、まるで昨日のことのように思い出せる。
きっと誕生日やクリスマスのように、七夕もすごく楽しみにしていたんだろうな、私。
この世界に来てからは、そんな余裕もなくなってしまっていたけれど。
「ささの葉さらさら、のきばにゆれる…」
子どもの頃によく歌っていた“たなばたさま”。
ふと思い出して、なんとなしに口ずさんでみる。
「お星さまきらきら、きんぎん砂子」
一番を歌い終えると、背後からぱちぱちと拍手が聞こえた。
歌うことに夢中になっていて、誰かが近づいてきていることに全く気がつかなかった。
振り返れば、そこには柔和な笑顔を浮かべた銀がいた。
「銀…」
「愛らしい小鳥の囀りに導かれてやって参りました。よろしければ続きをお聞かせ願えませんか?」
柔らかな物腰で、あまりにも自然な所作で、銀は私の傍らに腰を下ろした。
さすがは平家の公達。
何気ない動作であるのに、その一つ一つが優雅に感じられた。
隣でにこにこと微笑まれては断るにも断れない。
私は覚悟を決めて、小さく息を吸い込んだ。
「五しきのたんざく、わたしがかいた…」
それほど大きな声で歌っているわけではないけれど、辺りが静かなせいか、歌声は風にはらまれて空へのぼっていくように感じられた。
久しぶりに歌う歌だけど、歌詞は忘れることなくしっかりと覚えていた。
幼い日の記憶というのは、どうやらなかなか消えないものであるらしい。
銀は満足そうに目を閉じて私の歌を聞き入っている。
「お星さまきらきら、空からみてる」
そっと歌い終えれば、銀は余韻に浸りながらゆったりと瞼を持ち上げた。
「奏多様の歌声は本当にお美しい…天女さえ嫉妬するでしょう」
「毎度のことだけど大袈裟だから」
肌がむず痒くなるような台詞。
慣れなくては、とは思うけれどなかなかうまくいかない。
「大袈裟などではございません。泰衡様も奏多様の歌声をお褒めでいらっしゃいました」
「泰衡さんが…?」
「はい。下手な奏者の騒音を聴かされるよりは幾分ましだ、と」
「…それって褒めてるの?」
「泰衡様なりの賛辞かと。滅多に人をお褒めになったりなさいませんので」
銀の言葉に、それもそうかと納得する。
藤原泰衡とはそういう男なのだ。