目に見えぬ絆を胸に
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私は女だから男の気持ちはよく分からない。
でも、今こうして重衡さんに膝枕をしてもらって嬉しいと思っているのは紛れもない事実で。
私の思考回路は、もしかしたらどちらかといえば男よりなのかも知れない。
「でも私は、奏多さんにこうして差し上げたかったのです」
「私に?」
「はい。昨日兄上に振り回されてお疲れでしょう?その上今日はまた私の誕生祝いで宴の席…奏多さんはあまり騒がしい場が得意ではないようでしたので、連れ出す良い口実になるかとも思い、貴女の時間が欲しいなど無理を申し上げてしまいました」
「重衡さん…」
全部、全部、私のことを思っての行動だったんだ。
今日は重衡さんが主役なのに、私が重衡さんのために尽くしてあげるべき日なのに。
私はいつも重衡さんに与えられてばかりだ。
眉根を寄せて悲しそうな表情を浮かべる重衡さんの頬に、私はそっと手を伸ばして触れた。
重衡さんは私の手に自分の手を重ねる。
重衡さんの手は私よりもずっと大きくて、私の手はすっぽり包まれてしまった。
触れている部分が温かい。
人の温もりに、安心せずにはいられない。
他ならぬ重衡さんの温かさだからこそ、余計に安堵を覚えるのかも知れない。
「ありがとう、重衡さん。いつも、ありがとう」
「いえ…貴女は誰に対してもお優しいから、いつもご無理をなさる…。天女を纏いし神子姫、どうかその御身を休めるのなら、どうか私の傍で」
そう言って、流れるような美しい動作で、重衡さんは私の手の甲に口づけを落とした。
世が世なら、この人はきっと王子様だったんじゃないかと思う。
この身のこなしや甘い言葉は、そう簡単に身に付くものではないと思うのだ。
「どうかなさいましたか?」
私が恥ずかしくてまた顔を逸らしていれば、重衡さんが私を覗き込む。
全く悪びれた様子も無く、そして私が何故こんなにも恥ずかしがっているのかを、彼は全く理解していないのだ。
いつも私ばかりが彼に振り回されているのだと思うと、少しばかり釈然としない。
たまには彼の困った顔を見てみたいような気もする。
今の私ではそれはまだ出来そうにないけれど。
「重衡さん、お誕生日、おめでとう」
「ありがとうございます」
作戦を考えるのはまた今度にしよう。
今日は彼の誕生日。
今日は彼の願うままの私でいてあげよう。
そう考えて、私は彼に満面の笑みを向けた。
あなたが私を見ていてくれるから
私は少しばかりの無理をする
あなたが心配してくれるから
私はそれ以上を踏み出さない
あなたの存在だけが
私の心を突き動かすんだ──
《終》