目に見えぬ絆を胸に
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誰かが傷付かない対価が私で済むというのなら、これ程安価でお得な物はない。
幾らでも献上しよう、というものだ。
私が意気揚々と口にすれば、銀はみるみるうちに表情を曇らせる。
どうやら私の発言がいたく気に入らなかったらしい。
「しかし、貴女が傷付く事で悲しむ人もいるのですよ」
伏せられた瞳が痛々しい。
その表情をさせた張本人が自分自身に他ならないというのはどうにも気分が良くない。
私自身に悪気はないとはいえ、流石に罪悪感が押し寄せる。
私は銀の頬に手を伸ばし、そっと撫でる。
優しすぎる彼には、私の荒んだ考えは毒でしかないから。
「分かっているよ。銀がそうだから」
「ならば、何故──」
「それが私の生きている理由だから」
その言葉に偽りはない。
全ての真意を話してはいないけれど。
まだ銀は納得がいかないようで、相変わらず端正な顔が台無しな怪訝な表情を浮かべている。
「みんなを助ける為に、私は生きて、此処にいるの」
「奏多様の仰りたい事は分かります。しかしそれで奏多様が傷付いてもよい、という理由にはなりません」
きっぱりと、はっきりと。
強い口調で銀は断言した。
先程までの柔和な対応や、憂いの眼差しがまるで幻であったかのように。
私を真っ直ぐに見詰め、頬に触れたままの私の手に、一回り大きな手を重ねてくる。
私を惑わせる、その行動。
「八葉の皆様には申し訳ありませんが、私は…奏多様、貴女が傷付く事が何よりも辛く、悲しく……憤りを感じずにはいられないのです」
「憤り?」
「ええ。貴女を傷付けた怨霊が、貴女を守りきれない彼らが、そして常に貴女の側にいる事の叶わぬ私自身が…疎ましくて仕方がないのです」
銀が触れている部分から、彼の心の痛みがダイレクトに流れ込んでくる。
身体の痛みでなくても、心の痛みでも、人は悲鳴をあげるものなのだ。
銀の痛みを感じて、私はこんなにも私は今満たされている。
彼のこの痛みを自分のものとして、何とか彼の痛みを消してやりたいと心の中で画策している。
それだけで私はまだ生きていける。
銀の痛みが、私の心を支配する限り。
「…ありがとう。これからは、怪我はしないようにする。銀を悲しませたくないから」
「奏多様……」
ゆったりと微笑めば、銀は安堵の表情を浮かべる。
私が心の底でどれほど穢い事を考えているのかも知らぬまま。
貴方の痛みを糧として
私はこの運命を生きていく
貴方は何も知らなくていい
ただ私の側にさえいれば──
《終》