目に見えぬ絆を胸に
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「また、“彼”の事を考えていらっしゃったのですか?」
「……!」
言葉に詰まる彼女に、図星だと確信する。
本当に嘘を吐くのが下手な御方だ。
ふとした仕草やほんの小さな表情の動きで、彼女の考えている事は朧気ながら理解する事が出来る。
喜怒哀楽の表現があまり豊かではない彼女だからこそ、ついつい小さな動きに注目してしまうのだ。
「やっぱり分かっちゃいますよね。涙の痕、そんなに簡単には消えないし」
「奏多様……」
ふわり、とした微笑みを向けられて、自分から切り出したくせにどうしようもなく傷付いた。
思慮に欠けた振る舞いに罪悪感が押し寄せる。
そんな私の様子に気付いたのか、奏多様は私の頬に手を伸ばす。
氷のように冷たい指先に、思わず手を重ねてしまう。
「銀さんは悪くないですよ。悪いのは私、です。あの人を忘れられない、諦められない私です」
そう呟いた途端に、また堰を切ったように溢れ出す貴女の涙に、私は思わず貴女の腕を引いて、華奢な身体を腕の中に閉じ込める。
もう離したくない。
そんな祈りを込めながら。
私の行動に驚いた貴女は、戸惑ったように声をあげる。
か細い声は静かな部屋の中でも聞き取るのがやっとだった。
「…し、銀さん?」
「私の声が、私の姿が貴女を悲しませているのは理解しています。でも、どうかお願いです。彼ではなく、今貴女の前に居る私自身を見て下さい」
絞り出した声は情けなくも震えていて。
それでも貴女は笑ったりしなかった。
私の言葉に目を見開いてから、すぐにその表情を消し、小さく笑った。
今にも消えてしまいそうな儚い笑み。
それでも私は気付いた。
いつも貴女を見つめ続けていたからこそ、気付く事が出来た。
それこそが貴女本来の笑みなのだと──
まだその瞳は悲しみを宿しているけれど、確かに小さな光が宿って。
貴女は今は私だけを見つめてくれている。
くたびれた微笑みはずっと封じ込められてはいたもので。
泣き腫らした瞼の痛々しさにそっと指先で触れる。
冷たい指先に怯える事もせずに私を見つめる貴女に。
胸に宿るあの人への醜い嫉妬が、ほんの少しだけ昇華されたような気がする。
ほんの、ほんの少しだけ──
私は貴女に誓いましょう。
あの人のように、私は貴女を置き去りにしたりなど、絶対にしない、と。
私はずっと貴女の側にいます
その涙が乾くまで
輝く笑顔が戻るまで
そして、その先も
貴女が悲しみを感じぬように──
《終》