目に見えぬ絆を胸に
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声を掛ければ中から漏れ聞こえるのは立ち上がる音と衣擦れの音。
そして静かに開かれる御簾。
真っ赤な瞳と拭い切れぬ涙の痕。
上気した頬に、彼女が泣いていた事は明らかで。
「ありがとう、心配かけてごめんなさい」
無理に作った笑顔に、胸が締め付けられる。
それほどに、貴女は──
「奏多様……」
声をお掛けすればびくりと肩を震わせる奏多様に、いたたまれない気持ちになる。
疲れた表情の奏多様に私は微笑みかけながらもう一度問い掛ける。
「中に入っても宜しいでしょうか?」
「あ、うん。どうぞ」
奏多様は快く私を迎え入れて下さる。
円座を用意した奏多様は私に座るように促す。
着物の袖口から覗く腕は白く、片手でも折る事が出来てしまいそうに細い。
しかしそれでも彼女はその細い腕で刀を振るい、戦い続ける。
傷付いても傷付いても尚、前へ進もうとする。
それは皆の幸せの為で。
それなら一体彼女自身の幸せは一体どこにあるというのだろう。
「本当にごめんなさい、銀さん。いつも心配ばかりかけてしまって」
「いえ、私の事などお気になさらず。私がただ貴女のお力になりたいだけなのです」
泰衡様の命だから、ではなく。
これは私の本心から。
人形のくせに、と泰衡様はお笑いになるけれど。
内側から溢れ出るこの感情は紛れもなく私自身のもので。
それを偽る事など、出来る筈がない。
貴女に嘘を吐く事など出来ない。
例え貴女がそれを望んでいたとしても。
奏多様が私を平知盛と間違えた時も否定した。
私は彼ではないから。
彼になりたいと願った事はない、そう言ってしまうとそれは嘘になる。
それでも偽りで貴女の心を手に入れても、仕方がないのだ。
貴女の瞳に、私は彼ではなく、私自身として映りたいのだ。
「女房に作らせた薬湯です。体が温まりますのでどうぞ」
「ありがとう、ございます」
私から薬湯を受け取った奏多様は、それをゆっくりと口へ運ぶ。
白い喉元を嚥下する様を見守りながら、私は囁くように告げる。
貴女を傷つけたくないと願いながら、相反した残酷な言葉を口にする。