目に見えぬ絆を胸に
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泣かないで
泣かないで
貴女の涙は美しいけれど
それ以上に
どうしようもなく
私の胸を苦しめるから
だからどうかお願い
私の前では笑っていて──
《腫れた瞼に口付けを》
あの人はもうずっと泣いてばかりいる。
もう居ない人を想って。
還らぬ人に思いを馳せて。
私によく似た出で立ち。
名を平知盛。
先の壇ノ浦の戦場で入水した男。
その男は死と引き換えに彼女の心を手にした。
彼女の想いを全て連れ去ってしまった。
私の姿を見る度に彼女は涙を流す。
白い頬を伝う雫は、とても美しいけれど悲しみに染め上げられていた。
いくら願っても手に入れられぬその少女は、とても遠い存在に感じられた。
手を伸ばせば届く距離にいる筈なのに。
どうしようもなく遠かった。
八葉の皆様や神子様の前では気丈に振る舞う。
皆に心配を掛けまいとして。
何故彼らはそれに気付かないのか。
知っていて尚、気付かぬ振りをしているのか。
どちらかは知れないが、それでも彼女が無理に笑顔を作る姿は、見ていてあまりにも痛々しかった。
高館にて神子様方は寛いでいた。
今日は吹雪の為に外出を控えられる事にしたらしい。
それは賢明な判断であるといえるだろう。
まだ彼等はこの平泉の雪に慣れていない。
その上悪天候となれば、怨霊と対峙してしまった時に対処が遅れてしまうだろう。
例え白龍の神子様、そして彼女を守護する八葉といえども、一瞬の判断の誤りが最悪の事態をも引き起こしかねない。
泰衡様から彼等を守るように仰せつかってはいるものの、さすがにあれだけの人数を全て守りきるというのは難しい。
「銀殿」
高館の渡殿で後ろから声を掛けられ、振り返ればそこには黒龍の神子。
静と停滞を司る神子。
物憂げな表情に私は立ち止まり彼女が此方へやってくるの待つ。
尼僧の彼女は名を梶原朔と言った。
源氏方の戦奉行、梶原平三景時の妹御。