目に見えぬ絆を胸に
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まだこの運命の時点で私達は出会ってはいけなかったのかもしれない。
だって私達はまだ敵同士だから。
どんなに想いあっていたとしても決して結ばれない。
「十六夜の君…?」
貴方は心配そうに私を覗きこむ。
揺らぎそうになる心を何とか落ち着けて貴方を見据えた。
「貴方の名を…。」
「……私は…私は重衡。平重衡と申します。」
「私の名は、奏多。私は応龍の神子…」
私の言葉に貴方の瞳が見開かれる。
唇から言葉が漏れる。
「貴女が…〈源氏の神子〉だというのですか…?」
「そう。…私と貴方は、敵同士…。今はまだこの思いは報われない。」
「今、は?」
私の小さな言葉を拾って貴方は私に尋ねる。
私は貴方から目を反らさずに頷いた。
「私を、信じて。きっと貴方と幸せになれる運命を選んでみせるから。」
今はまだ和議のことは話せない。
話して安心させてあげられたらいいんだけど、それは出来ない。
運命というものはたった一つの選択で大きく変わって歪んでしまうから。
貴方は前へ一歩進みでる。
私も引いたりはしない。
決意は揺るがないと、貴方に無言でそう伝えるために。
「貴女と幸せになる運命の為に私が出来ることはないのですか?」
「……ごめんなさい」
「そう、ですか。分かりました。貴女を信じます。貴女がもう一度逢いに来て下さることを」
「ありがとう…。大好きよ、重衡さん。ううん、銀」
貴方は一度だけ私を優しく抱き締めて、それから押し離した。
「早くお行き下さい。私が貴女を離したくないともう一度捕まえてしまう前に。」
私はくるりと踵を返した。
私だってこのまま貴方の側にいたらきっと迷ってしまう、躊躇ってしまう。
源氏も平家も関係ない。
貴方が側にいてくれさえすればいいと願ってしまいそうになるから。
だから今は離れるの。
皆が幸せになれるその時に私達も幸せになりたい。
私はどんどん歩を進める。
戦で疲れていたはずの足がとても軽い。
新たなる決意が胸に生まれたから。
やらなくちゃいけない事がはっきりと形になったから。
「奏多様っ!」
振りかえる。
私の名を呼ぶ声に。
だってそれは確かに私だけの名前。
他の誰でもないから。
時々忘れてしまいそうになるけど……。
私は小さく笑って。
そして。
もう、振り返ったりしなかった──
《終》