目に見えぬ絆を胸に
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私は三草川の中に足を踏み入れる。
生温い水が私の躯にまとわりつく。
着物が水を吸って鉛のように重くなり、私の躯を下流へと押し流そうとする。
私は両の足でしっかりと自分を支える。
月明かりに照らされた私の躯の心の臓の辺りに私は手を添える。
どこからともなく光が溢れ、私の躯を包む。
私の内側で悪意が暴れているのが分かる。
憎しみや怒りや後悔。
一人ではどうしようもない感情が私の内で渦巻いている。
嘆きに押し流されてしまわないように私は目を閉じる。
瞼の裏に大切な人を思い浮かべて。
私の内に宿る応龍が悪意を浄化していくのを感じる。
ありがとう──
誰かの感情が私の中に流れこんでくる。
悪意や嘆きでなくて、もっと優しくて温かい思い。
その声が、ずっと聞きたかったの。
私のしていることが救いになっているのだと、ちゃんと教えて欲しかった。
「私こそ、ごめんね。……ありがとう。」
言葉にする。
伝わらないと分かっているけれど。
形にしたかったんだ。
私は胸の前で光を握り締める。
暖かい感触を手の平一杯に感じる。
手をゆっくりと躯から離し、星の輝く漆黒の空へと伸ばす。
そして徐々に手を開いていく──
指の間から溢れるように小さな白い蝶が淡い翠の光を放ちながら天空へと昇ってゆく。
手を開き終えても暫く蝶は私から生まれていた。
嘆き達が空へと還ってゆく様子を私はゆっくりと見上げた。
月明かりを浴びながらもそれに劣らぬ柔らかく美しい光を放ち空気にゆったりと溶けてゆく。
"儚い"という言葉の意味を理解したような気がしていた。
私が痛みに耐える事で沢山の悪意や嘆きが浄化され光を纏い空へ還り、やがて廻るのならばそれも悪くはない。