幼馴染みと恋人の境界線
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朔と別れて奏多の姿を求めて京邸の門をくぐる。
市の方へ歩き出そうとした時、後ろから声をかけられた。
「お節介さん、一人で行っちゃうの?」
声に振り返れば、奏多が塀に凭れかかりながらこちらを見ていた。
悪戯な笑みを浮かべながら右足をぶらつかせている。
「走って行ったやつが言う言葉かよ」
「だって将臣が掴んだとこ痛かったんだもん!ほら、痕ついちゃったんだから」
奏多はぱたぱたと俺に駆け寄ってきて右側の着物を捲りあげる。
奏多の細く白い腕が露になり、俺は思わず生唾を飲んだ。
「ほら、ここ見てよ、ここ。赤くなってるんだから」
奏多がそう言いながら指差した上腕ははっきりと指の形に赤くなっていた。
そんなきつく握った覚えはなかったんだけどな。
だけどそんなことよりも、着物の袖の下に隠れた腕の部分についた無数の傷痕の方が気になった。
擦り傷や切り傷だけではなく、太刀か掠めたような痕まである。
塞がりきっていない傷が痛々しかった。
俺の知らない所で奏多は戦っている。
俺のいない時に奏多は傷ついている。
此処には確かに俺の知らない奏多がいるんだ──
そう思うとやりきれない気持ちにならずにはいられなかった。
変わらないものなどない。
そう信じていたけれど、実際に奏多が変わってしまったと知って、少し悲しかった。
奏多には変わらない、子供の頃のままでいて欲しかったから。
俺は奏多の腕に触れて、赤く残った痕に触れた。
指先でゆっくりと。
奏多が怯えてしまわないように。
だがそれでも触れた瞬間に奏多はぴくり、と反応した。
一度腕を引きかけたが、すぐに思い止どまると、無邪気な笑みを向ける。
「もうっ、くすぐったいよ」
そう言って笑った顔は子供の頃のままで。
腕に残された傷とのギャップが大きくて。
俺は戸惑いを隠すことができなかった。