あなたは私を知らなくても
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「少し、考え事をしていた」
「考え事、ですか?」
私の心の内を読んだとでもいうように、九郎さんは私が問い掛ける前に答えた。
こんな夜更けにまで考えることはといえば、やはり戦のことだろうか。
「平家との戦のことだ」
「…そう、ですか」
「ああ。お前や望美はこの戦が終われば、元の世界に戻ってしまうかも知れない。それでも、お前達が少しでもこの世界に留まっていることが出来るうちに穏やかな日々を過ごさせてやりたいと思ってな」
九郎さんははにかみながら私にそう言った。
ああ、あなたはなんて残酷な人なのだろう。
どうしてそこまで私のことを思ってくれるのだろう。
私はこれからあなたに別れを告げようとしているのに。
平和な世界は私だって見たい。
穏やかに過ぎる日々を、九郎さんと共に過ごしたい。
でも、その願いを叶えるためには今のままでは駄目なんだ。
今のままではあまりにも失われる命が多すぎる。
それはきっと九郎さんだって理解しているはずだ。
しかし九郎さんは源氏の総大将という立場上、源氏の兵を守ることしか考えられないのだ。
そしてそれはおそらく弁慶さんも景時さんも同じ。
それなら、まだ比較的自由に行動の出来る私がやるしかないのだ。
裏切り者のレッテルを貼られることになっても。
私が全てを背負うことで救われる何かがあるのなら、安いものだ。
「その時は…奏多、お前と本当の婚儀をあげたいと思っている。雨乞いの儀式の時に宣言した通りに」
「……!」
「ははは、やはり驚かせてしまったか。まだお前には話すつもりはなかったからな」
「……」
「…でも、何故だかお前に今話しておかねばならない気がした」
そう言った九郎さんの表情は真剣そのもので。
だから一瞬、真実を話すことが躊躇われた。
しかし、当の九郎さんが私の言葉を急かした。
「こんな夜更けに来たんだ。大事な話があるんだろう?」
「…はい」
私は九郎さんが掛けてくれた羽織の裾をきつく握り締めながら、ゆっくりと唇を開いた。
「今日は、九郎さんにお別れを言いに来ました」