あなたは私を知らなくても
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九郎さんのいう通り、今日はカレーだ。
今日は特別な日だから、彼の好きなメニューにしたのだ。
「朝も言いましたけど…九郎さん、お誕生日おめでとうございます。なので、今日は九郎さんの好きなカレーにしてみました」
「そうか…誕生日を祝って貰えるというのは、本当に嬉しいことだな」
「九郎さんが生まれた、大切な日ですから。お祝いするのは普通のことです」
「お前や望美たちが来てからは、本当に賑やかなものだったからな」
「賑やかなの、嫌いでしたか?」
「いや、とても充実した楽しい時間だった!」
「ふふ。そう言ってもらえると嬉しいです。準備しますから、ちょっと待っていてくださいね」
「ああ、わかった」
私は九郎さんを促してから、剣道着を洗濯するために脱衣所へ向かった。
洗濯機を設定してからダイニングに戻れば、九郎さんがお皿にカレーをよそって既に着席していた。
私が戻るのを待てないほどに、カレーを食べたくて我慢できなかったんだろうか。
ふとそんなことを考えると、九郎さんが口を開いた。
「いつも何もかもお前に任せてばかりだからな。料理を作ることは出来ないが、盛りつけるくらいなら譲の手伝いをして出来るようになったぞ」
自信満々な表情で言う九郎さんに、自然と笑みがこぼれる。
そうだった。
この人はそういう人だった。
「ありがとうございます。じゃあいただきましょうか」
「ああ、冷めないうちにな」
私は九郎さんの向かいに座って、胸の前で手を合わせる。
それに倣って、九郎さんも手を合わせる。
「いただきます」
「いただきます」
二人同時に言ってから、私たちはカレーを食べ始める。
九郎さんの好みに合わせた、少し甘いカレー。
将臣は少し小馬鹿にしていたけれど、私たちにはこれくらいの辛さのものがちょうどいいのだ。
「譲の料理もうまいが、やはり俺は奏多の作る料理の方が好きだな」
「褒めてもこのあとにはケーキしか出ませんよ?」
「ケーキもあるのか?」
「お誕生日ですから」
「奏多の手作りか!?」
九郎さんは期待に満ちた眼差しを私に向ける。
私よりも5つも年上のはずなのに、彼は時折幼い少年のような顔をする。
もしも買ってきたケーキです、なんて言おうものなら捨てられた子犬みたいな表情をするんだろうな、とか考えて思わず口元が緩む。
だけど、その表情を見ることは出来ない。
だって今日のケーキは九郎さんが聞いてきたように、私の手作りのケーキだから。