キミと私とあなたがいれば
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
元の世界に還りたい──
そう思わなくなったのは、一体いつの頃からだったのだろうか。
そう遠い日の事ではないはずなのに、もうずっと昔の事のように思ってしまう。
奏多は独り、誰もいない海辺で、淡い白光を放つ少し儚げな十六夜の月をただぼんやりと眺めていた。
煌めく星々もさざめく波の音も、ただ虚しく奏多の躯を通り抜けるだけだった。
《幻の大地》
今が幸せ?
そう尋ねられれば、“そうだ”と即答する事が出来る。
それなのに──
この満たされない気持ちは一体何だというのだろう。
心配する必要はどこにもない。
自分で剣を持ち、戦いに赴く理由もない。
だがそれでも、奏多は時々どうしようもない不安に駆られていた。
強い風が吹いて、奏多の柔らかい真珠色の髪が巻き上げられる。
それを全く気にも止めずにただ一心に闇色に染められ、月と星の光だけを朧げに反射する海を見つめていた。
「なんて顔してんだよ」
優しい声色と共に奏多の華奢な躯は逞しい腕に後ろから抱き締められた。
振り向かなくとも、それが誰であるのか奏多にはすぐに分かった。
分からない方が少しおかしいのかも知れない。
何故なら奏多にとってその声の主は自らの命と引き換えにしても守りたい人だったからだ。
「海、見てたの。将臣はどうして此処に?」
少し疲れたような控え目のトーンで、奏多は将臣に対してそう言った。
将臣が次の言葉を紡ぐその前に、奏多の折れてしまいそうに細い躯は、将臣から引き離された。
そして奏多の柔らかな躯は、別の人間の腕によって抱きすくめられた。
太くて固い腕。
奏多の頬に触れる銀糸の髪。
将臣を睨み付ける紫水晶のような瞳。
奏多はその人を知っている。
たった今首筋に落とされた唇の柔らかい感触も。