理想と現実のはざまで
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それから暫く、私と弁慶さんは河原に腰を下ろして静かに桜を見上げた。
他愛のない話で笑いあって。
穏やかに過ぎる時間が、狂おしいほどに愛おしかった。
そして思ったんだ。
ああ、私はこういう幸せな一瞬のために戦い続けているんだな、って。
「…本当にありがとうございました、弁慶さん」
「奏多さん?」
「今日、弁慶さんと二人でこんなにも綺麗な桜を見ることが出来て、私、本当に嬉しいです」
私の言葉の真の意味は、きっと今の弁慶さんには正確には伝わらないだろう。
それでも感謝をせずにはいられなかった。
この旨に宿る気持ちを伝えたかった。
弁慶さんはあまりにも真剣な表情で告げる私に、一瞬疑問を感じていたようだったけれど、それでも笑って一度だけ頷いてくれた。
その表情はまるで、もう何も言わなくてもいい、と言ってくれているようで。
私も小さく頷いてから、また桜に視線を戻した。
私たちに許された刻限は残りわずか。
九郎さんが私が屋敷にいないことに気がつく前に、戻らなければならないから。
だけど、この幸せな時間を、お願いだからもう少しだけ。
私の愛したあなたはいないけど
それでも
あなたは確かにここにいて
桜を二人で見上げている
来年も
再来年も
あなたと桜を共に見るために
私は剣を取り戦うの──
《終》