理想と現実のはざまで
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弁慶さんの次は私が首を傾げる番だった。
理由は他にもちゃんとあるようで、私の自意識過剰だったらしい。
なんて思い上がりだろう。
恥ずかしいったらない。
羞恥心から目を伏せれば、弁慶さんが腰を曲げて私の顔を覗き込んでくる。
蜂蜜色の瞳で見つめられれば、視線を逸らせなくなってつい彼を凝視してしまう。
「この場所、僕のお気に入りの桜の見所なんですよ」
「ここが、ですか?」
「ええ。ここの桜、この近くの他の桜よりも色が少し淡いんですよ。ほら、下鴨神社の桜はもう少し濃い色をしているでしょう?」
そう言って弁慶さんが指差した下鴨神社を見やる。
確かに小さく見える下鴨神社の桜は目の前にいる桜よりも随分ピンク色が鮮やかだった。
目の前の桜はピンクというよりは白色に近くて、遠くにある下鴨神社のピンクとのコントラストが何ともいえず美しかった。
弁慶さんが“お気に入りの桜の見所”と言ったのが分かるような気がする。
知る人ぞ知る名所、というやつだ。
「いつか奏多さんに見せてあげたいと思っていたんですよ。まさか見頃の今に限って、君が九郎に外出禁止令を出されるとは思ってもいなかったですけどね」
「あはは…そうですね。まさか私もここまで厳しく言われるとは思いもしませんでしたよ」
九郎さんにこっぴどく怒られた時のことを思い出して、私は思わず苦笑いを浮かべた。
「でも、良かった」
「良かった?」
「ええ。だってそのお陰で、僕は君と二人きりで、こうしてこの場所の桜を見ることが出来たんですから。九郎には感謝しなくてはいけませんね」
そう言って弁慶さんは口元に手を当てて笑う。
そう言われてみれば、確かにそうかも知れない。
みんなといる場所で桜を見に行く、なんて話になったとしても二人きりというのはどう考えても無理だ。
きっと望美がみんなで行こうと言い出して、リズ先生が場所取りをしてくれて、譲がみんなのお弁当を作らされるに決まっている。
桜を見ながらみんなで大騒ぎして。
その夜は騒ぎ疲れてみんなですぐに眠りこけたりして。
まあ、それはそれで楽しいかも知れないけど。
だけどやっぱり。
好きな人と見上げる桜は格別だ。
きっと今私の瞳に移る桜の美しさに勝るものはないだろう。