理想と現実のはざまで
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こんな風に弁慶さんは時々、砂を吐きたくなるようなことを言う。
ヒノエや銀に比べればまたまだ優しいものなんだけれど、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
さすがはヒノエの叔父様、といったところだろうか。
「なんて…奏多さんを困らせるのはここまでにして──ねぇ、奏多さん、僕と花見に出掛けませんか?」
「は?」
予想もしていなかった言葉に、私はかなり間抜けな声をあげる。
…聞き間違いではないだろうか。
この運命の、この時点での弁慶さんが、私を花見に誘うなんて。
私があからさまに戸惑っていれば、弁慶さんは目を伏せて悲しそうな顔をする。
その表情も作戦の内、なんだろうか。
そんな風に弁慶さんを疑ってしまう自分がなんとも情けない。
いつから好きな人のことでさえ疑ってしまうようになったんだろう。
「いきなりで驚かせてしまったみたいですね。ただ…君にもこの京の美しい桜を見て欲しくて…部屋の中に閉じこめられていては退屈でしょう?」
「弁慶さん…」
「もちろん無理に、とは言いません。もし君さえ良ければどうかな、と」
やんわりと微笑まれてしまえば、否定の言葉を紡げるはずもなく。
私は静かに一度だけ頷いた。
***
「…なんだか意外でした」
景時さんの屋敷を誰にも見つからないようにこっそりと抜け出して、弁慶さんと二人で下鴨神社の近くの小川にやってきていた。
桜の名所と呼ばれるような所ではなく、人知れず美しい花を咲かせている数本の桜の木を見上げながら、私は口元を緩める。
こういうのってなんだか弁慶さんらしい。
ちょっとした心遣いが優しくて心に沁みる。
私がこっそり抜け出していることが誰にもばれたりしないように、わざと人の少ない道を選んでくれたり。
この桜にしても、そう。
「ごめんなさい、弁慶さん。せっかくのお花見なのに、気を遣わせてしまって…」
私が謝れば、弁慶さんは少し首を傾げた。
それでも私の言葉の意味をすぐに理解してくれたようで、弁慶さんは笑った。
「気にしないでください。それに君を此処に連れてきたのは、それだけが理由じゃないんですよ」