理想と現実のはざまで
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立ち上がって窓から外を見つめる。
自業自得なのかも知れないけれど、やっぱり悲劇だと思う。
こんなにも麗らかな日に、篭の鳥だなんて。
悲劇としか言いようがない。
黙ってこの場所から抜け出してやろうか。
それくらいのことは容易いことだ。
私なら、絶対にうまくやれる。
抜け出すだけじゃなくて、もしも私がここから逃げ出したなら、みんなどう思うだろう。
彼はどう思ってくれるだろう。
なんて。
そんなことを考えていれば、後ろからふわり、と抱きしめられた。
決して太くはないけれど、ちゃんと鍛えられた男の人の腕。
微かに香る薬草と香の混ざり合った独特の匂い。
そして、ワンテンポ遅れて届く優しい声。
「何をしているんですか、奏多さん?まさか逃げるつもりだった、という訳じゃないですよね?」
「べ…弁慶さん」
相変わらずこの人は絶妙なタイミングで私の前に現れる。
もしかしたら私を見張っていたんじゃないのか、と思わず疑ってしまうくらいに。
私にとっては懐かしい腕の中。
だけど、今の弁慶さんにとっては私をからかうためだけの、ただの戯れに過ぎない。
その事実を突きつけられる度に、胸が締めつけられては泣きたくなる。
「弁慶さん、冗談はよしてください。大声あげますよ?」
「ふふ…それは困りますね。奏多さんと二人きりの時間を邪魔されるのは惜しいですからね」
冗談なのか本気なのか分からない声で言いながら、弁慶さんは私の体を解放する。
ほっとしたような残念なような複雑な感情のままで、私は弁慶さんを見上げる。
余裕のある微笑みをたたえながら私を見下ろす弁慶さん。
優しい瞳の奥に激しい感情を押し隠しているのを私は知っている。
それでも、今私の前で穏やかに笑みを浮かべる彼の瞳にはそういった負の感情はないように思われた。
「僕の顔に何かついていますか?」
「え?」
「いえ、奏多さんが珍しく僕の顔を凝視しているものだから、何かあるのかな、と」
「あ、ご、ごめんなさい。失礼ですよね、人の顔をじろじろ見るなんて…」
「僕の顔を見るのは別に構いませんよ。寧ろ君みたいな可愛い人に見つめられるなんて嬉しいことですから」