理想と現実のはざまで
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雪が祝福をしてくれている。
そんな風に考えたことは今まで一度もなかった。
それどころか憂鬱に感じていたことの方が多かったような気がする。
雪はしんしんと降り続け、喧騒さえかき消していく。
あまりに静かすぎる時間に、つい余計なことを考えてしまいがちだった。
過去の過ちや、当時の自分の立場、それから未来のこと。
明るい方に導くことが出来ずに、負の螺旋にはまってしまっていた気がする。
だけど、彼女はとても自然にそれを“良いこと”だと捉えた。
到底僕には真似が出来ない。
「いくら冬に生まれたからって、毎年雪が降るなんて、本当に珍しいことですよ。北国に住んでいるわけじゃないんだし…やっぱり雪がおめでとうって言ってるんですよ」
何の根拠もない、楽観的な考え。
普段の僕なら、聞き流すかばっさりと切り捨てていたかも知れない。
でも不思議と奏多さんが言うのなら、もしかしたらそうなのかも知れない、なんて思ってしまった。
本当に僕らしくない。
だけど今日くらいは彼女の子供じみたその言葉に、耳を傾けてみてもいいかも知れないと思った。
彼女がほんの一時でも、幸せそうに笑ってくれるのなら。
「ふふ…君が言うと本当にそう思えてしまうから不思議ですね。僕は幸せものですね。君のように可愛らしい人と、こんなにも美しい雪から祝ってもらうことが出来て」
自分から言い出したことなのに、照れて少し恥ずかしそうに笑う彼女に、僕もつられて笑った。
この戦いを終わらせて、奏多さんからの贈り物を受け取りたいと思いながら。
君は本当に不思議な人だ
澱んでいた僕の心に
静かに音もなく
ふわりと舞い降りてきて
波紋を描きながら
ゆっくりと浄化させていく
ああ、君はいつか
僕の罪でさえも
癒やしてくれるんだろうか──
《終》