理想と現実のはざまで
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望美さんや譲くんには絶対に話さないで欲しいと強く口止めをされていた。
あまりにも彼女の瞳が真剣なものだから、僕は彼女のその要求を承諾することにした。
ただし、怪我をしてしまった時には必ず僕の所に来るように、という条件付きで。
その条件を奏多さんは律儀に守って、現在でもこっそりと怨霊退治を行っている。
一刻も早く、元の世界に戻れるように、と。
「…では、君からの贈り物は、この戦から無事に戻れたら必ず受け取りましょう。だから…無茶をしてはいけませんよ、奏多さん」
「はい、分かりました。無茶は、しません」
そう口にはしていても、誰かが危機に陥ろうものなら、真っ先に危険をおかすのが彼女だ。
常に彼女の動向には気を配っておかなければならない。
無謀なことをしようとしていれば、何があっても止めなければ。
彼女を悲しく辛い運命に導いたのは僕だ。
それならせめて、彼女を守ることでせめてもの償いをしなければ。
その責が僕にはある。
「だけど、弁慶さんも無茶しないでくださいね。プレゼント渡す相手がいないと始まらないですから」
「ふふ…君の言うとおりですね。肝に銘じておきます」
そう言って笑みを作れば、視界に白い結晶がちらついた。
「あ…雪、ですね」
僕の前で奏多さんが穏やかな声をあげる。
そういえば彼女は雪が好きだ、と言っていたような気がする。
触れれば消えてしまう、純白の結晶。
それは少し彼女に似ているような気がして。
らしくもなく余計なことを口にしてしまう。
「僕の誕生日の日は、いつも決まって雪が降るんです」
僕の言葉に奏多さんは目を見開く。
その瞳は心なしかいつもよりもきらきらと輝いているようにも見える。
「毎年、ですか?」
「えぇ、ここ数年は毎年ですね」
晴れた空、というのを見たのはもうずっと昔のことのような気がする。
別段天気が悪いから、といって気に留めたこともなかったけれど。
今振り返ってみれば、いつも雪だった。
粉雪が舞うのを、ぼんやりと見上げていたような気がする。
奏多さんがしてくれたように、僕なんかの誕生日を祝ってくれる人なんていなかったから。
「雪も弁慶さんを祝福してるのかも知れませんね」
奏多さんは良いながら漆黒の空を見上げる。
まるで夜空から星が降るように細雪が舞い落ちてくる。
今度は彼女の言葉に僕が瞠目する番だった。