あなたは私を知らなくても
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「いや、何もお前が鍛錬を怠っていると言っている訳じゃないぞ…!そうではなくて───」
必死に言葉を探して慌てている九郎さんを見て、私は笑った。
そこまで本気にしなくても良いのに。
私だって九郎さんがそんなつもりで言ったんじゃないことくらい分かっている。
少し、困らせたくなっただけだ。
私のことを、少しでも気に留めてもらいたくて。
「ふふ、冗談、です」
「な…!奏多、お前まで望美のようなことを言うのはやめてくれ」
「……」
九郎さんの口から出た“望美”という言葉に嫉妬する。
私といるのに、望美の話はして欲しくない。
二人で居る時くらいはせめて私のことだけを考えていて欲しい。
自分の中で、黒くてどろどろした感情が渦巻くのが嫌でも分かる。
いい子でいたいのに。
汚い私を九郎さんに見せたくないのに。
でも一度生まれてしまった感情は、そう簡単には制御出来ない。
「どうして、私が望美のようなことを言っちゃいけないんですか?望美、可愛いのに」
私が九郎さんを真っ直ぐに見詰めながら言えば、九郎さんはきょとん、と目を丸くしてみせた。
私の言葉の意味が理解出来ない、といったような表情だ。
そして大して悩んだ素振りも見せず、あっさりと口にした。
「お前が望美になってどうする。あいつのような女は一人で十分だ。奏多、俺はお前には今のままでいて欲しいと思ってる」
「今のまま、ですか?」
「ああ。俺は今のお前を──その…気に入っているからな」
そう言ったかと思えば、九郎さんは私から視線をそらしてしまった。
“気に入っている”
その言葉はどうとでも解釈出来る、とても曖昧な言葉だと私は思う。
仲間として気に入ってくれているのか。
それとも女として気に入ってくれているのか。
仮に良いように解釈して女として気に入っているだとしても、それが“好き”に繋がるのかどうかはまた別の話だ。
その言葉の真意を聞いてみたいと思う。
でも、望む答えじゃなかったら?
今の関係が壊れてしまうようなことになってしまったら?
そう思うと、怖くて言葉に出来そうにない。