あなたは私を知らなくても
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京邸の屋根の上に上って星空を見上げる。
最近は雨が続いていたから、久し振りに晴れた星空を見たような気がする。
元の世界よりも遥かに綺麗な星空に、私はいつまでたっても慣れることが出来ない。
こうして空を見上げる度に、いつも嘆息してしまう。
プラネタリウムが大好きで、よく将臣を道連れにして見に行っていたけれど、あの星空とは比べ物にならない。
今でも元の世界に戻りたいと思ってる。
でも、元の世界に帰るということは、この星空とお別れをしなければならないということ。
そして何よりも、九郎さんに二度と会えなくなってしまうということ──
素直に元の世界に戻ることを喜べなくなってしまった私は、いつも望美や譲に申し訳ない気持ちになる。
二人はいつも元の世界に戻ろうと必死に戦っているのに。
もしも元の世界に戻れないことが分かったとしても、今の私ならそれはそれとして受け入れてしまえそうな自分が怖い。
「…どうしたらいいんだろうな、私」
星空に向かって呟けば、後ろからいきなり返答があった。
この場所には私しかいないと思っていたから、驚いて身体を強張らせてしまう。
「何か悩み事でもあるのか、奏多?」
振り返れば、そこには羽織を持った九郎さんがいた。
「え、と……」
私が答えに困っていれば、九郎さんは小さく笑って私に近付き、持っていた羽織を私の肩にかけてくれた。
ふわりと九郎さんの香りが鼻腔をくすぐる。
お香の香りとかそういった類いのものではなくて、九郎さんの匂いだ。
「話せないなら別に構わないさ。だが、こんな所にずっといては風邪を引くぞ」
「ありがとうございます、九郎さん」
九郎さんはそう言って私の横に腰を下ろした。
わざわざ私のために羽織を持って来てくれたんだろうか。
いや、もしかしたら私が此処に居ることを知っている望美あたりに羽織を持っていくように言われたのかも知れない。
私には羽織を掛けてくれたけれども、九郎さんはいつもの格好だった。
秋に入って急に寒くなった。
昼間はまだ温かいけれど、夜の京はすごく冷え込む。
私よりも九郎さんの方が風邪を引いてしまわないか心配だ。
それに私のせいで九郎さんは風邪を引いてしまったりしたら嫌だ。
「最近急に寒くなったから、九郎さんの方こそ風邪を引いてしまいますよ?」
遠慮がちに口にすれば、九郎さんはからからと明るく笑う。
私は彼のそんな笑顔が大好きだった。
眩しくて、こちらまでつられて笑顔になってしまう九郎さんの笑顔が。
「俺のことなら心配いらん。日々鍛錬しているからな」
自信満々で言う九郎さんの瞳はきらきらと輝いている。
九郎さんが毎日鍛錬を頑張っているのは、私だって知っている。
でも、私だって鍛錬は欠かさず行っている。
さぼったりなんてしていないから、立場は九郎さんと対等のはずだ。
私が少しむっとした表情をして見せれば、私の表情の意図を理解した九郎さんはたちまち慌てて弁明した。