理想と現実のはざまで
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口付けは一瞬。
離れていく小さな熱に、やり切れない思いが心を支配する。
でもそれは彼の優しさ。
私が疲れているのを汲み取って、それ以上をしたりはしない。
適当にあしらわれている訳じゃない。
子供扱いされてる訳じゃない。
そんな簡単な事、彼の瞳を見ればすぐに分かる。
だから嬉しさとやりきれなさが絡み合って複雑な心持ちになるのだ。
彼は知っているのだろうか。
自分の行動が、こんなにも私の心を掻き乱しているという事。
まあ、弁慶さんなら知っていたとしてもやりかねないんだけれど。
「いつまでもこんな場所にいては本当に風邪を引いてしまいます。部屋まで送りましょう」
そう言った弁慶さんに私はかぶりを振る。
疲れて帰ってきた弁慶さんに迷惑は掛けたくない。
彼から距離を取って私は笑う。
いつの間にか身に付いてしまった作り笑いではなく、心からの笑みで。
「部屋までは一人で戻ります。私の部屋、すぐ其処ですから。弁慶さんを待ってたのも、一言伝えたかっただけなんです」
“おやすみなさい”
私の言葉を聞き取ると、弁慶さんは眉尻を下げて微笑んだ。
そして私が紡いだものと同じ言葉を返してくれた。
私はくるり、と踵を返し、自分の部屋へと軽い足取りで戻る。
今、 振り返れと言われても絶対に出来ない。
だって私の頬、緩みっぱなしだったから。
ただそれだけの事で私は幸せになれる
他人から見たら些細な事かも知れない
でも、私にとっては
何よりも大切な事だから──
《終》