理想と現実のはざまで
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
そう言って九郎さんは縁側を後にした。
残されたのはまた私一人。
初めからずっと一人だったなら、きっとこの虚しさを知らずに済んだのだろう。
でも私は知ってしまった。
沢山の人達の優しさを。
だから今、こうして必死に押し寄せる寂しさを堪えている。
早くあの人に帰ってきて欲しいと願いながら。
「本当に遅いな、弁慶さん……」
呟きながら、庭で淡い光を放つ灯籠に目をやる。
その輝きは遠からず、彼の持つ蜂蜜色の髪の色によく似ている。
彼の柔らかい色の方がよっぽど綺麗だけど。
今日は政子さんに呼ばれた、とか言っていたような気がする。
九郎さんはすぐに戻ってきたけれど、弁慶さんだけはいつまで経っても戻ってこなかった。
そんな時はいつも不安にならずにはいられない。
だって彼はいつも一人で全てを背負って、一人で戦おうとするから。
一人で傷付いて、苦しんで。
でも私達の前では何でもないふりをするんだ。
それに私は気付いてしまった。
彼の本当の心に触れてしまった。
だから私はもう、知らないふりをする事は出来ない。