あなたは私を知らなくても
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「平泉、私も行ってみたかったです」
両手を突き出して雪を掬う真似をする。
私の指先に触れて、雪はすぐに溶けてなくなってしまった。
“今此処にいる私”は平泉を知らない。
九郎さんを守るために、私は平泉へ行く、という選択肢を捨てた。
だからあの場所にいるであろう泰衡さんは私を知らない。
悲しいけれど、何かを手にするという事はそういう事だ。
全部手に入れよう、なんて都合が良すぎる。
「そうだな…お前に泰衡を紹介してやりたかったが……」
言いながら表情を曇らせる九郎さんに、私はかぶりを振った。
そんな顔をさせるつもりはなかったのだ。
ただ純粋に、もう一度平泉を見てみたいと思っただけで。
ああ、だから嫌になる。
口を開けば、言葉の全てが大切な人を傷付けてしまうような気がして。
「いいんです。私は九郎さんが居てくれれば、それでいいんです」
「奏多……」
「それ以上を望んだりしません。私、今がとっても幸せですから」
言葉にすれば、それが現実なのだと実感出来る。
私は間違いなく幸せなんだと噛み締める事が出来る。