あの遠き海へ願う
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「両手に花だね、ヒノエ」
低い声で言うけれども、私が不機嫌だとヒノエは全く気付く様子もなく、望美と朔に挟まれたヒノエは嬉しそうに笑顔を向けてくる。
「美味しい甘味処を見つけたおかげで、こうして神子姫たちに囲まれているんだからね」
「…二人で行くと思ってたのに」
「固いことを言うなよ、奏多。みんなで行った方が楽しいだろ?」
「…そうだけどさ」
唇を尖らせていれば、ヒノエは笑顔のままで私に近付いてきて、少し屈んだかと思えば私の耳元に唇を寄せた。
そして吐息がかった甘い声で囁く。
「拗ねないでよ、奏多。お前と二人きりで行きたいおすすめの場所もちゃんとあるからさ」
「…本当に?今度は二人だけ?」
「ああ。俺が嘘をついたことなんてあったかい?」
そうなのだ。
ヒノエは嘘をついたりはしない。
今日だって、私の早合点で二人きりで行けるものだと思っていたから、この場に望美達が来て、勝手に拗ねて、勝手に不機嫌になっただけなのだ。
ヒノエは私を誘ってくれはしたけれど、二人きりで、なんて一言も口にしていないのだから。
「…ない」
「だろう?次はお前と二人きりだから…約束」
望美達には見えない角度で、ヒノエは私にそっと小指を差し出す。
ああ、こんなことをされるとさっきまでのどろどろとした感情がどうでも良くなってしまう。
次にヒノエと二人で出掛けることに気がいってしまう。
なんて薄情で、なんて切り替えの早い女なのだろうと自分でも少し呆れてしまう。
そんな自分に少し嫌気がさしたこともあったけれど、恋というものはそういうものなんだと望美と朔が教えてくれたから。
だから、このままでいいんだ。
「うん、今度は絶対、約束、だからね」
「ふふ…そうやってムキになる姫君も可愛いね。たまには嫉妬されるっていうのも、悪くないね」
自信たっぷりに口元をつり上げるヒノエは少し妖艶で、やっぱり格好よく見えて。
彼を私だけのものに出来たら良いのに。
なんて、そんな独占欲が自分の中に渦巻くのを感じずにはいられないんだ。
「さ、機嫌をなおしてよ、奏多。望美達が待ってるよ」
差し出された手を取って。
私はヒノエとともに歩き出した。
私はまだ
キミの“特別”にはなれない
その場所にはほど遠くて
でも、それでも
少しずつ少しずつ
キミとの距離は近付いているんだって
そう思っても構わないかな──
《終》