人ならざるものであっても
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雨粒がひっきりなしに降り注ぐ空を見上げながら、私は溜息を零す。
帰れないわけじゃない。
鞄の中には折り畳み傘をちゃんと準備してきているのだ。
だけど、この雨の強さだと折り畳み傘では少し頼りなく感じてしまって躊躇しているのだ。
「覚悟を決めるか…」
そうぼそりと呟いてから、私は鞄の中に手を突っ込む。
手探りで折り畳み傘を掴み、それを引き出そうとした時、聞き慣れた声が聞こえた。
昇降口の向こう、校門の方から。
「奏多!」
大きな傘に覆い隠されていて、前から誰が近付いてきているのか全く分かっていなかったけれど、声を聞いてすぐに分かった。
「敦盛くん?」
名前を呼べば傘が少し上向きに傾けられ、紫紺の髪と瞳が現れる。
ほのかに上気した頬についさっきまで走ってここまでわざわざ来てくれたのだということが伺い知れる。
もしかして、左手に持っている傘は、私のために?
「良かった、入れ違いになってしまわなくて」
「う、うん。もしかしてわざわざ傘を持って来てくれたの?」
「ああ、将臣殿が奏多はたぶん持っていていないからと」
どうやら私の性格をよく分かっていらっしゃるのは将臣のようだ。
でも生憎だけど、今日はちゃんと天気予報を見て、折り畳み傘を持って来ている。
いつもいつも傘を忘れて制服びしゃびしゃのままで家に帰っているわけじゃないのだよ。
というかそもそも、一番最初に私が傘を忘れているかも知れないと気づいているくせに、自分で持ってこずに敦盛くんに任せるとは一体どういう了見だ。
家に帰ったら絶対問いつめてやらねば。
そんなことを考えていると、敦盛くんは私に向かって傘を差し出した。
優しいピンク色の傘。
ああ、これは。
「これ、望美の傘だわ」
「あ…そうなのか?女性ものの傘がこれしか見当たらなくて、てっきりこれだと…」
「あーごめん、ごめん。私つい実用を重視してしまうから、大きめの地味なストライプ柄の傘を使ってるの」
「すまない…今からもう一度戻って───」
「いいよ、いいよ。そんなことしてもらうの申し訳ないよ」
「しかし…」
「あ!」
「?」