優しすぎた世界
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「どうしたんだよ、樹。何か用か?」
問いかければ途端に樹の表情が曇る。
何か気に障る事でも言っただろうか。
俺が疑問に思っていれば、樹は痺れを切らして口を開く。
「せっかく持って来てあげたのに、チョコ」
「は?」
「だから、一日遅くなっちゃったけど、バレンタインのチョコ」
そう言って樹は丁寧にラッピングされた箱を俺に見せる。
あかねと詩紋からもらったチョコとは全く違う、本人の几帳面さがよく現れたものだった。
あかね達からもらったチョコのラッピングはおそらくはあかねがラッピングした物だろう。
ところどころずれて歪な感じが、普段はそういった事をしていない事を如実に表していた。
詩紋は普段からお菓子作りに勤しんでいるから、ラッピング程度はお手のものなはずだ。
何故樹が今頃バレンタインのチョコを差し出しているのかといえば、彼女はバレンタイン前々日から当日にかけて風邪をこじらせてしまっていたのだ。
お見舞いにいこうとしたあかねを断ったくらいだ。
相当悪かったのだろう。
今日でこそ元気にいつも通りの樹だが。
「いらないなら、私、自分で食べるけど?」
「……」
「天真はいらないって言ってくれたけど、やっぱり彼女としては作りたいわけなのですよ」
「……し、仕方ないからもらってやるよ!」
顔を背けながら手を差し出せば、すぐに訪れる箱の平らな感触。
同時にふわりと鼻孔を掠める甘い香水の香り。