優しすぎた世界
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
鬼の一族を、アクラムを倒して。
京に平和が訪れて。
でも、そのかわりに、あなたの気配が消えて──
その時胸に訪れた虚無感を、絶望感を。
私はまだ、まるで昨日のことのように鮮明に思い出せる。
もしもあなたがいなくなってしまったなら、私はまたあの時の気持ちを味わうことになる。
あの無力感を抱きしめたまま生きていくなど、今の私には出来そうにない。
否、きっと出来ない。
私は、樹殿の前に屈んだ。
あなたに誓う為に。
「あなたがそばに居て下さるのなら、私はどんな苦難も乗り越えてみせましょう。あなたの笑顔が、二度と曇らぬように」
「…もう、この世界には戻ってこれないかも知れないんですよ?」
樹殿は、瞳を伏せて、私を見下ろす。
初めて私たちが出会った時よりも、幾分か大人びた眼差し。
引き結ばれた赤い唇も。
何もかもが愛おしかった。
あなたがいてくれるのなら、何もいらないとさえ思える。
「それでも、構いません。覚悟は出来ております。ただ一つ足りないのは、樹殿、あなたからの許しだけ……」
樹殿は、膝を折り、私と目線の高さを合わせた。
翡翠の瞳が柔らかく弧を描く。
慈愛に満ち溢れていて。
それでいて気高く、力強さを秘めた瞳。
私はこの方のこの瞳に、囚われている──
「私からの許しなんて、ありません。私からあるのは“お願い”です。私の世界へ、共に来てくれますか?」
控えめに紡がれた言葉に、私は大きく頷いた。
私たちの間にさよならは必要ないのだと、そう信じて。
《終》