優しすぎた世界
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私は距離を取って、樹殿の瞳を覗いた。
言葉よりも、瞳はその人の気持ちを雄弁に語る。
今は亡き兄が、私にそう教えて下さったから。
樹殿は、潤んだ瞳で私を見上げる。
翡翠に似た瞳が、何かを訴えかけようと揺らいでいる。
あなたの唇が薄く開かれて、私は覚悟を決めた。
紡がれる言葉が拒絶であったとしても、それを受け入れるために。
「本当に、いいんですか?」
樹殿の口から滑り出た言の葉に、私は自分の耳を疑った。
聞き間違えたのではないかと、不安になる。
「樹…殿。それは肯定と受け取っても宜しいのですか?」
「辛いんですよ、苦しいんですよ。知らない世界で生きていく大変さは、私が一番よく知ってます」
樹殿は余程動揺しているのか、私の質問の答えとしては適当でない台詞を吐く。
胸の前できつく組まれた両手が、彼女がこの京に馴染むのにどれだけ苦労したのかを如実に現している。
「その辛さを頼久さんに味わわせてまで…一緒にいたくないんです」
「それは違います、樹殿」
彼女の言葉を、私はすぐ様否定した。
彼女は大きな勘違いをしているから。
「辛さよりも、苦しさよりも、私はあなたを選びたいのです。あなたのいない世界の方が、今の私にはきっと辛い…私はあなたを、知ってしまったから」