優しすぎた世界
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切なげに揺れる眼差しに、私は気が付けば樹殿の体をきつく抱き締めていた。
決して離すまいと、強く、強く。
私の突然の行動に、樹殿は驚きを隠しきれないようだった。
細い姿態は硬直してしまい、私になされるがままになっている。
「あ…あの、頼久…さん……?」
戸惑いがちに絞り出された声は少し震えていて、私は思わず樹殿の体を抱き締める腕の強さを大きくした。
「頼久さん…苦しい、です」
何とかあげた抗議の声に耳も貸さず、私は樹殿の首筋に顔を埋めた。
ほのかに香る梅花に、私は胸が痛くなる。
この腕を離してしまえば、あなたは私の前から居なくなってしまう。
あなたの柔らかな体を抱き締めることも。
あなたの透き通る声に耳を傾けることも。
何もかも叶わぬこととなってしまう。
「あなたのような高貴な方にこのような無礼な行為を働く私を、どうかお許し下さい。そして叶うならば……」
そこで私はあえて言葉を切った。
次の言葉を紡ぐことに、躊躇いを感じずにはいられなかったから。
ほんの少しの罪悪感。
しかしその罪悪感は、私の胸の奥にくすぶる樹殿に対する思いには、到底かなわなかった。