縮まらない二人の距離関係
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還内府殿にしては珍しく、はにかんだような表情を浮かべた。
いや、「珍しくなってしまった」というべきだろうか。
彼がこの世界に訪れたばかりの頃にはよく私にも見せて下さっていた表情だ。
でもいつの頃からか──還内府と呼ばれるようになった頃から、彼は幼げな無邪気な表情を見せなくなった。
私に見せる切なく、悲しげな表情と、眉間に皺を寄せている顔ばかりを見てきたような気がする。
だから、正直なところ少し嬉しくなった。
彼がまた、柔らかい表情を見せてくれたことに。
こんな時、私は自分に課せた戒めを解いてしまいそうになる。
──彼の幼馴染みの身代わりでも構わない
そんなことを考えてしまいそうになる。
その選択は、私にとっても還内府殿にとっても、一番辛いということは目に見えて分かっているのに。
彼の言葉に、態度に、思わず揺らいでしまいそうになる。
「私などではとても還内府殿の──」
「二人の時は「将臣」って呼んでくれって」
「しかし……」
「頼む」
短く、強く言い切られてしまっては、私はそれに逆らう術を持たない。
私のようなものが平家の惣領たる彼に意見することなど許されるはずがないのだ。
それでも、私がまだこうして彼に対してささやかな抵抗をみせてしまうのは、彼──将臣殿が、この世界の殿方よりもずっと優しいから。