優しすぎた世界
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何故か彼女の表情、眼差しに漠然とした不安を感じずにはいられなかった。
引き結ばれた唇も、きつく握りしめられた両の拳も。
言い知れぬ不安を、ただ煽るばかりだった。
私はそれでも逃げる訳にはいかなかった。
樹殿は逃げずに、私に向き合おうとしている。
受け止める側が及び腰では、相手に対して失礼だ。
「私に大切な話とは一体なんでしょうか?」
私が尋ねると、あなたは悲しそうな顔を浮かべて、私の手を握り締めた。
小さな白い手は可哀想になるくらいに震えていた。
あなたが一体何に怯えているというのか、今の私には皆目見当もつかない。
だからこそ私は、あなたの細い指先をしっかりと握り返した。
「樹殿…あなたがこれから私に何を話そうとしていらっしゃるのかは分かりません。しかし私はあなたが話して下さるまで待ちます。だから、そんなに焦らないで下さい」
そう告げれば、あなたは小さく安堵したように微笑んだ。
ただその表情を見ることが出来ただけで、私は十分だった。
樹殿は数度、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。
そうして心を落ち着けた後、ゆっくりと言葉を紡いだ。
私が、いや、八葉の誰もが想像だにしていなかった言葉を──
「私たち、元の世界へ…帰ろうと思います 」
愕然とせずにはいられなかった。
樹殿の唇から紡がれた言葉に。
彼女のあまりにも清々しい眼差しに。
「…しかし……何故急に…」
情けない。
自分の声が震えているのが嫌でも分かる。
きっと今の私は樹殿に縋るような視線さえ送っているのだろう。
しかし樹殿は普段と何一つ変わらぬ優しい態度で答えた。
声色に寂しさや悲しさを押し殺しながら。