縮まらない二人の距離関係
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「還内府殿、お待たせいたしました」
御簾の前で立ち止まって言えば、すぐに「入って構わねぇぜ」と声が返ってくる。
でも、その声はいつもよりもずっと暗く沈んだ声だった。
私には分かる。
ほんの些細な変化だとしても。
それはきっと、私が彼に思慕の情を抱いているから。
叶わぬ恋に身を焦がしているから。
「失礼いたします」
静かに御簾を上げ、中に入れば、彼は円座に腰を下ろして刀の手入れをしているところだった。
しかし私が前に跪けば、すぐにそれを仕舞った。
「悪いな。わざわざ持って来させて」
「いいえ、それが私の仕事でございますから」
「………」
ああ、「また」だ。
私が侍女であることを言葉にする度に、彼は切ない表情をする。
私は紛れもない、揺るぎようのない真実を述べているだけなのに、彼のその表情を見るだけで胸が締め付けられる。
彼の杯に酒を注ぎながら、いつも思う。
この人は、戦が激しければ激しかった分だけいつも強い酒を呷る。
きっと、酒に酔うことで、惨い戦場でのことをほんの一時でも忘れようとしているんだろう。
私は女で、戦場の様子を知らない。
知盛殿から何度か話を聞いたことがあるけれど、気分のよいものではなかった。
知盛殿は愉しそうにお話しになっていたけれど、私にとっては寧ろ不快感が込み上げただけだった。
「帰る場所があるっていうのは、本当にいいものだな」
「どうなさったのですか、突然」
「いや、今日の戦いは本当に酷いものだったんだが、お前の顔を見て、こうして酒を注いでもらったらなんだか……らしくもなく安心してる自分に気付かされたっていうか……」