優しすぎた世界
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二人の間に沈黙が落ちた。
ほんの少しの間だったのか、それともかなり長い間だったのか、俺には分からなかった。
ただやたらと心臓の音が五月蠅くて。
それを樹に悟られたくなくて。
雨の音がもっと響き渡ればいいと思った。
でも、樹が手の届く距離にいるこの時間がもっと続けばいいと思った。
樹という存在を、もっと知りたいと思った。
“くしゅん”
一瞬、永遠に続くかのように思われた沈黙は、可愛らしい小さなくしゃみによって、唐突に終わりを迎える。
俺は思わず手を樹の頬に伸ばして触れた。
いつも蘭にそうしていたように。
当たり前のように体が勝手に動いていた。
俺と樹が初対面だった、と思い出したのは、樹に触れてしまった後だった。
でも今更慌てて手を引くのも逆に変かも知れないと思った俺は極めて自然な態度を取ろうと努めた。
大丈夫だ、と自分に言い聞かせて。
樹も驚いて瞳を見開いてはいたけれど、拒絶の色は見せなかったから。
「ほら、お前こんなに冷たくなってるじゃないか。ジャージか何か持ってきてるか?」
俺の言葉に、樹はふるふると首を横に振る。
制服のままでいれば風邪を引くのは確実だろう。