優しすぎた世界
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あまりに淡々というものだから、俺は言葉に詰まった。
俺のあからさまな動揺に気付いたのか、樹は小さく笑った。
「そんなに気にしなくてもいいのに」
「い、いや、悪かった」
「ううん、いいの。森村くんが悪い訳じゃないし、誰かが悪いんじゃないから」
名前を呼ばれて、俺は樹をじっと見た。
呼ばれ慣れた筈の名前。
でも樹が呼べば、何か特別なもののように思われた。
「律義な人なんだね、森村くんって」
「そうか?そんな風に言われたの、初めてだな」
「皆遠慮してるだけじゃないかな。森村くんってなんだか『近付くなオーラ』醸し出してそうだから」
「…近付くなオーラ?」
俺が鸚鵡返しに尋ねると、樹は悪戯好きな少女のような微笑を浮かべた。
細められた瞳はまるで子供みたいだった。
「放っておいてくれ、みたいなオーラ。…でも本当は違うんだ。面倒見がよくて、人の事を放っておけないお兄ちゃんみたいな人」
“お兄ちゃん”と言われてドキッとした。
動揺する必要なんてどこにもないのに、俺は反応せずにはいられなかった。
「何で俺が面倒見がいいって分かるんだよ」
動揺した事を誤魔化すように言うと、樹は首を傾げて、ほんの少しの苦笑いで俺に言った。
その声色は、とても優しかった。
「じゃあ森村くんは今、どうして私を濡れないように引っ張ってきてくれたの?」
「だから、風邪引いたらお前が困るからだよ。さっきも言ったじゃないか。ちゃんと聞いてたか?人の話」
「だから、だよ」
「は?」
「私達今日初めて知り合ったんだから、さっきの森村くんからしてみたら私は全然知らない子だよね。何の繋がりもない私の事なのに心配してくれた。私が雨に濡れて風邪引いても、森村くんには何の関係もないのに。だから優しい、だよ」
諭すように力強く、樹は俺に言った。
その瞳はとても真剣で、射るように真っ直ぐだった。
とてもじゃないが、翡翠の瞳から目が離せそうになかった。
深く、神秘的なその色に引き込まれてしまいそうだった。