優しすぎた世界
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この手は君の手に届かず
いつだって後悔ばかりを繰り返してきたけれど
君は此処に居て
私が此処に居る
それだけは決して変わらない真実で
君の優しさだけが私を此処に繋ぎ止める
いつか私がいなくなる日が来ても
君が幸せでいられるように
この空を裂く光を残していこう
暖かな光が君を新しい世界に導くように
君が振り返ったりしないように
知らない唄だった。
バラードによく似た曲調で、聞くつもりなんてなかったのに、気がつけば耳を傾けてしまっていた。
出来る事ならずっと聞き続けていても構わなかった。
不思議とそう思わせる唄だった。
それなのに──
“ぽつり”
頬に冷たい感触が当たった。
俺はそれが何なのかすぐに理解した。
空が空だから、その結論に達するのは容易い。
幸い俺のいた所には屋根があったから、突然の雨にも濡れなかった。
それでも。
まだ唄は続いている──
降り頻る雨の中でも、歌声は絶える事なく、雨音に書き消される事もなく屋上から空へと響いていた。
濡れる事も厭わず、女は唄を奏で続ける。
白い四肢を雨水が伝い、艶やかに煌めく。
滴は女の体にやがてゆっくりと浸透していく。
綺麗だ、と思わずにはいられなかった。
だが、いつまでも見とれている訳にはいかない。
雨の中、歌い続けるなんてどうにかしている。
俺は立ち上がり、濡れるのを気に止めずに、女の元に駆け寄った。
走りながら学ランを脱ぎ、後ろから女の頭に被せる。
そして、折れてしまいそうな程に細い手首を掴んで引いた。
とりあえずは雨のかからない所まで移動する。
そして俺は改めて女の顔を見つめる。
恐ろしい程に整った顔立ちに、細い肢体。
明らかに日本人のものではない翡翠の瞳が少し不機嫌そうに俺を見上げている。
通った鼻筋に、林檎のように熟れた赤い唇。
俺は女の顔から目が離せなかった。