優しすぎた世界
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「おい、森村、何処行くんだよ。次、漢文だぜ?」
うざったく呼び止めてくる声が耳に届いたけれど、俺は振り返りもしない。
大して仲が良い訳でもないのに、そんな下らない事だけは聞いてくる。
俺は行き先は告げずに、ひらひらと右手を振った。
「サボり」
そいつは後ろの方で何か言っていたけれど、聞こえなかった。
正確にはその声を聞く事でさ億劫な事のように思われた。
辺りは授業中の為に、無音の廊下には時折教室の声が響いていた。
そんな中、俺は少し足音をたてながら階段を上がった。
別段何処に行こうとは思っていなかった。
だが、気がつけば俺の足は屋上へと向かっていた。
誰ともすれ違わずに、俺は屋上の前までやってきた。
冷たいドアノブに触れ、扉を開け放つ。
幸いな事に今日は誰もいない。
これなら気兼ねなく昼寝が出来そうだった。
俺は陰になっている場所に静かに腰を下ろし、壁に凭れかかった。
空は──快晴から程遠い曇天。
天気になんて興味はなかった。
でも、こんな天気に屋上に来るもの好きはきっと、俺くらいなものだろうと思っていた。
だけど実際は違っていて。
一人の女が其処にいた。
フェンスの前、亜麻色の髪を靡かせながら。
翻るスカートから覗く白い肌。
絵画の事なんて何一つとして分からない。
でもその光景は何処かからごっそり抜け出してきたかのように“絵”になっていた。
女はこちらには全く気付いていないようで、やや首を上に傾け、雲が覆う空を見上げている。
そして何を思ったのか、女は唐突に歌い始めた。
それほど大きな声ではないのだが、よく透き通る声だった。
耳を通り抜けていく歌声は少しも嫌だとは思わなくて。
逆に心地よいとさえ思った。