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傘をなくした私は、ずぶ濡れになるはずだった。
もとよりそのつもりだったし、それでも別に構わなかった。
自分の意志に従っての行動であったから、それで風邪を引いてしまったとしても本望だった。
でも、私は濡れなかった。
雨が跳ね返るあの独特の音。
小気味よいリズムが刻まれる。
私はゆっくりと、緩慢とした動作で後ろを振り返る。
誰なのかはなんとなく分かっていた。
だってこんなことをするのは、私が知る人物の中では一人しか思いつかない。
「奏多先輩、傘を置いてどうするつもりですか。風邪引きますよ?」
優しい口調。
怒気は全く含まれていなくて。
相変わらずの幼馴染みに、私は口元を歪ませた。
本当に心配症なんだから。
私、それくらいじゃあ風邪、引かないよ?
そんなことくらい、ずっと側にいる君が一番分かっているはずでしょう?
「譲、話は帰ってから聞く、って言ったよね」
「…俺、知ってたんです。奏多先輩がこの桜を大切そうに見守ってるのを。この前偶然帰り道で見かけて」
譲は、少し申し訳なさそうな表情で告げた。
そして更に言葉を紡ぐ。
「今日の朝もしきりに天気を気にしていたから、何かあるんだろうな、と思って。兄さんには放っておけって言われたんですけど、どうしても心配で。奏多先輩も兄さんと一緒で結構無茶をするところがあるから…」
年下の少年に本気で心配されて、なんだが自分が本当に情けなく思えてきた。
そんなに私は後先考えずに突っ走ってるかな。
そんなに私は無鉄砲で、危なっかしく見えるかな。
自分では全く自覚がないんだけど。