理想と現実のはざまで
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それから僕と奏多さんは二人きりのリビングで、奏多さんが作った紅茶を飲み、譲くんお手製のスイートポテトを食べながら、他愛もない会話を交わした。
内容の無いくだらない話ばかりではあったけれど、奏多さんとこうしてゆったりと過ごすことが出来ることはとても嬉しかった。
ふと訪れた沈黙と共に小さな視線を感じた。
注意していないと気付かないようなそんな些細なものだった。
それでも間違いなく、薄紅の瞳は真っ直ぐに僕を捉えている。
「ふふ…そんなに見つめられたら穴が開いてしまいそうです。僕の顔に何かついていますか?」
僕が気付いていると思っていなかったのか、いきなり声を掛けられた奏多さんは目を丸くして、それから慌てて言葉を取り繕う。
慌てふためく奏多さんというのもなかなか新鮮なものだった。
「あっ!…いや……何もついてないんですけど、ただ……」
「ただ?」
「あー…弁慶さんは髪、切らないんだなって思って」
どうやら奏多さんが真剣に見つめていたのは僕の顔ではなく、僕の髪だったらしい。
そういえばこちらの世界に来てから、あまりにも目立ち過ぎるから、という理由で九郎と敦盛くんが景時に切ってもらっていましたか。
将臣くん、譲くん、ヒノエ、景時は元々そう長くはないし、リズ先生に至っては望美さんの希望でそのままにしている。
唯一僕だけが髪を伸ばしたままだった。
どうやら奏多さんはそれを気にしているらしい。
「奏多さんは僕も髪を切った方がいいと思いますか?」
僕は女人と違って髪にこだわりがある訳ではない。
ただ束ねている方が薬の調合の時に邪魔にならないから伸ばしているだけだ。
奏多さんが短い方がいいとこの場で言うのなら、僕は今すぐにでも髪を切り落としても良かった。
それほどに、僕にとって髪型はさして興味のないものだったから。