理想と現実のはざまで
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たったそれだけのことを僕に伝えるのに余程緊張していたのか、言い終えた瞬間に奏多さんは肩を撫で下ろした。
僕の答えも聞いていないのに、伝えるだけで満足してしまったらしい。
本当にどこまでも欲がなく、控え目な人だ。
まぁ、僕の答えは初めから一つしかないんですが。
「いいですね。僕もちょうど小腹が空いていたんです。昼食の後何も食べずにずっと資料を探していましたから。是非ご一緒させて下さい」
「……はい!」
僕の答えに対して、奏多さんは一瞬惚けたような表情を浮かべてから、めいっぱい笑った。
それはあの京や鎌倉では決して見ることが出来なかった笑顔だった。
きっと本来の奏多さんは今のように、素朴でいて、それでもとても幸せそうに笑う少女だったのだろう。
あの世界ではそれを必死に押し隠していたに違いない。
奏多さんは本当に優しい人だから──
「皆はどうしているのですか?」
僕はわざと心にもないことを言った。
皆には出来ればいて欲しくなかった。
ほんの少しでも、奏多さんと二人きりでいたいですから。
「皆違う場所を探しに行ってしまったみたいで、今家にいるのは私と弁慶さんだけなんです」
奏多さんは少し困ったような顔をして、残念そうな顔を浮かべる。
どうやら彼女は皆がいないことを本気で残念がっているらしい。
君は本当にいけない人ですね。
意図もなしにいつも僕を嫉妬させる。
無邪気な瞳で。
「…そうですか。仕方ないですね。じゃあ二人でお茶にしましょうか」
「はい。私先に台所へ行って紅茶の用意をしておきますね」
待って下さい、一緒に行きましょう。
そう僕が切り出す前に、奏多さんは台所へ向かう為に書斎を後にしてしまっていた。
僕は苦笑いを浮かべてから奏多さんの後を追った。