縮まらない二人の距離関係
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「それでは私はお先に失礼します。兄上も一緒にお飲みになっているのでしょう?ほどほどにするように、と重衡が言っていたとお伝えください」
「ああ、伝えとくぜ。じゃあな」
酒を抱えて去っていく重衡を見送った後、俺も奏多のお気に入りの冷酒を手にしてその場を離れた。
「おーい。ほら持って来てやった──ぞ……」
俺が部屋へ帰ってみると、すでにそこには知盛の姿はなかった。
柱に凭れかかりながら、奏多が一人で書物を読んでいるだけだ。
やっぱり思った通りだったな……
あいつに頼んだ俺が馬鹿だったよ。
「奏多、知盛はどうしたんだよ?」
「んー?何か興ざめだから今日は寝る、とか言って出てった」
「は?意味が分かんねぇな」
俺が溜め息混じりで言うのを聞きながら、奏多は本を閉じた。
「知盛が意味分かんないのはいつものことでしょ?それよりさ、将臣、ここに座って?」
「何でだよ?」
「いいから座るの!!ほら、早く座る」
「ったく……しょうがねぇな……」
逆らうわけにもいかず、俺は奏多の言うとおりに、その横に腰を下ろした。
奏多の真珠色の長い髪が腕に触れるほど近くに。
そういえば、こんな風に二人で座ったのは久しぶりにような気がする。
こちらの世界に来てから、俺はしばらくずっと一人だったし、奏多と再会してからも、俺たちが二人きりになれるような時間は殆どなかった。
それほど俺達はこの世界に追い詰められていたから。
奏多の呼吸する音に気持ちがざわめく。
押さえ込んでいた気持ちが溢れ出しそうになる。
「何か姉弟水入らずなのって久しぶりだねー。元の世界にいた時から私達すれ違い気味だったもんね。特に私が大学に入ってから」
「そうだな。奏多が家にいるのが少なくなったからじゃないのか?」
「そーかなぁ。でもバイトとか入るとどうしても家に帰れない時とか増えたからね……もしかして、寂しかったりした?」
奏多と同じことを考えていたのが嬉しかったのに、その気持ちは一瞬で打ちひしがれた。
余計なことさえ言わなけりゃ感動的なシーンなのによ。
きっとそれは奏多が俺を弟としてしか見ていないことの何よりの証拠だ。