あなたは私を知らなくても
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九郎はゆっくりと奏多に近づき、白い頬に触れた。
ずっと横になっていたせいか、血色が悪く本当に雪のように白かった。
「お前の杞憂は俺には計り知れん。お前は初めて出会った時からそうだったからな。だが…少し位は俺を頼ってはくれないか?」
「…頼ってますよ。だから、逢えなかった」
「どういう意味だ?」
「私、すぐに頼っちゃうから。だから今回くらいは一人で乗り越えなきゃいけないと思ったんです。九郎さんがいたら私はきっと甘えてしまうから」
九郎は奏多の言葉に少し呆れて頭を撫でた。
彼女は“頼っている”というが、彼女の“頼っている”は一般的に頼っているとは到底言えないような些細なものだった。
「雪…もう見たくない」
ぽつりと呟いた奏多の言葉に、九郎はぐいっと奏多を立ち上がらせる。
そして窓から見える太陽の光に照らされた雪を見せる。
だが奏多はぎゅっと目を閉じていた。
掴んだ細い腕は小さく震えている。
九郎はそんな怯えた様子の奏多の耳元でそっと囁く。
彼女にだけ聞こえるように。
ちゃんと奏多の心まで届くように。
「お前が何故雪を恐れるのか俺には分からん。だが、俺は雪が好きだ。あの泰衡の守る平泉を、俺は気に入っているからな。雪に悪い思い出があるのならそれ以上にいい思い出を作ればいい。俺がその手助けをするから…」
九郎がそう言うと奏多はゆっくりと瞳を開いた。
彼女の薄紅色の瞳にいつの間にか晴れていた青空と少しずつ解け始めた雪景色が映り込む。
直接見る景色よりも、奏多の目を通してみる情景はとても美しかった。
「だから、共に出かけないか?」
奏多は小さく笑って頷いた。
まだいつも九郎に見せるような明るい笑顔ではなかったけれど。
それでも奏多は確実に前に一歩を踏み出した。
雪の思い出が暖かい記憶に支配されるのはきっと時間の問題。
《終》