あなたは私を知らなくても
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「ん……」
眩しい光が部屋に差し込んでいることに気づいて、奏多はゆっくりと目を覚ます。
カーテンは確かに閉めていたはずだった。
それだけは間違いないと言い切れる。
なぜなら、降り積もる雪を見たくなかったから。
昔はあんなにも好きだった雪は、今では奏多を苦しめるものでしかなかった。
雪を見るたびに思い出すあの遠い異世界の悲しい運命の数々。
そして雪はその中でももっとも苦しい運命を思い出さずにはいられないから。
あの美しかった平泉。
でも、何よりも切ない記憶の多いあの場所。
何かを失う度に奏多を包んでいたのは純白の雪だった。
まるで白で全てのことを無かったことにするかのように降り続く雪に涙しないことは無かった。
そして同時に思い出される緋色。
せめて雪が止むまでは誰にも会いたくなかった。
だからこそ奏多は自分に触れる全てを遮断した。
九郎や将臣は優しすぎるから。
自分を心配することは目に見えて分かっていたから。
心配を掛けたくなくて、だからこそ連絡を取らなかった。
将臣からのメールも着信も、全部無視した。
あとで謝罪をしなければならない。
「奏多、気がついたか」
聞こえないはずの声がする。
正直に言うなら、雪の降る今、一番聞きたくなかった声。
奏多は声のした方向にゆっくりと体と視線を向ける。
そしてそこには予想した通りの人物の姿。
「九郎さん…」
「お前は一体何をしてるんだ。将臣も望美も譲もみな心配していたぞ」
きつく叱りつける口調に、奏多はそっと目を伏せる。
自分でも引きこもるような選択をしてしまったことは十分に反省しているつもりだった。
だがそれでも、胸を苦しめるものから自分を守ることだけで本当に精一杯だったのだ。
「お前のことだ…どうせあの雪に平泉の雪を重ねていたのだろう」
半分当たっていて、九郎は半分外れている言葉を口にした。
奏多はそれでも極力表情を崩さないようにした。
奏多の知る平泉と、九郎の知る平泉は正反対の位置にある。
九郎が知るのは最後の奏多が必死に紡ぎあげた平泉。
そして奏多が思い描くのは、幾度と無く繰り返された悲劇の場所の平泉。
大切な人が何度も自分の腕の中で息絶える瞬間を見届けた場所。
九郎の言葉は的を射てはいるけれど、重みは二人の間で全く異なっていた。