あなたは私を知らなくても
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
逢えないことが“普通”ではないのだということを、今将臣に教えられたような気がした。
大切な人に逢いたいのなら自分の足でそこへ向かえばいい。
「奏多……」
名前を小さく呟いて、九郎は有川家の階段を勢い良く駆け下りて玄関から飛び出した。
外は雪がまたゆっくりとちらつき始めていた。
空は相変わらずの曇天で、太陽はすっかり隠れておりその姿はどこにも見えなかった。
奏多の家は将臣の家のすぐ横で十秒足らずですぐにたどり着ける。
九郎は一度深呼吸をしてから奏多の家の呼び鈴を鳴らした。
家の中に響くその音を聞いている時間がまるで永遠のように感じられた。
静まり返った奏多の家に、九郎は心臓が高鳴るのを感じずにはいられなかった。
奏多が大丈夫なのは分かってる。
部屋の明かりはいつもどおりに点いたり消えたりしているのを知っていたから。
だからこそ九郎は安心していた。
たとえ逢えなくても。
だが呼び鈴を鳴らしても出てこないとなれば話は別だ。
奏多の身に何かが起こったのかもしれないという不安がこみ上げてくる。
九郎は外側から門を開け、玄関の扉の前に立った。
そして奏多がいつもしていたように鍵を鍵穴に差込み、ゆっくりと左に回す。
カチャリ──と音がして鍵が外れたことが分かる。
すぐに九郎は扉を開けて、玄関で靴を脱ぎ捨て、まずは居間に飛び込んだ。
だが当然のように奏多の姿はない。
となると、考えられるのは彼女の部屋しかなかった。