あなたは私を知らなくても
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将臣の言葉に九郎は驚きを隠せなかった。
あちらの世界では屋内にいることを嫌がってすぐに散策に出かけてはみなを困らせていた奏多が部屋に篭ったままだというのがいまいち信じられなかった。
「携帯に連絡してみても音沙汰がねぇし、家に電話しても出ねぇんだよ」
「家に直接行ってはみたのか?」
当然のように言い放つ九郎に、将臣は少し呆れたように苦笑いを浮かべてから溜息を漏らした。
馬鹿にされたような気がして九郎は将臣を少し睨み付ける。
「昔の俺だったらすぐにそうしてたさ。でも今はそうじゃない。奏多が本当に必要としてるのは俺じゃないからな。そうすべきなのは他にいるだろ?」
将臣は少し不機嫌そうに、でもどこか諦めに似た眼差しを九郎に向けながらそう言った。
すぐに伏せられた瞳に、九郎は少し罪悪感を感じた。
もしも奏多たちが時空を越えるという奇跡がなければ、奏多はきっと将臣の側で今もきっと笑っていただろうから。
この平和な争いのない世界で。
傷つくことも、あんなに悲しむこともなく。
「そんな顔すんなよ。俺がお前をいじめてるみたいじゃねぇか」
「あっ…す、すまん」
「とにかく、だ。俺が言うのも変だけど奏多の様子を見てきてくれないか?望美も譲も心配してたからな」
それだけを告げると将臣は立ち上がり部屋を後にした。
残された九郎は机の引き出しの中にしまっていた小さな銀色の鍵を取り出した。
奏多から受け取ってはいたものの、一度も使ったことのないその鍵のひんやりとした感触に、九郎はすぐにダウンを着込んだ。
じっとしてはいられなかった。
奏多に逢いたくて逢いたくて仕方がなかった。
愛しい人に逢えないことは普通だと思っていた。
昔はずっと母に会うことが叶わず、戦の世になってからは兄に会うこともなかなか叶わず。
いつも会えたことの喜びばかりを噛み締めてきたから。
だから奏多に逢えなくても気づかなかった。
自分が本当は寂しかったんだと。