あなたは私を知らなくても
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将臣は深海のような深い青色をした瞳で九郎を真っ直ぐに見据え、何かを言いたそうにしている。
将臣が何かを言いあぐねる、といったことは本当に珍しいことだった。
そんな将臣の様子を見た九郎は自分から話を切り出した。
あの世界で将臣は三年の年を経て大人らしくなっていたが、この世界に戻ってきてからは彼らが京に飛ばされる前の十七歳の姿に戻っているのである。
その少し幼い将臣の姿を見るとどうしてもあの勇ましかった還内府だとは思えずに、少し弟のように思ってしまうところがあった。
一度それを将臣に話したときは心底嫌がっていたが。
「どうした?何か話があるんだろう?」
「あー…そうなんだけどさ…」
いまいち歯切れのよくない将臣に九郎は部屋の隅に置かれていた二人がけのソファに腰掛けるように促した。
その赤い小さなソファは奏多がどうしても九郎の部屋に欲しいとねだるものだから、渋々購入したものだ。
奏多は九郎の部屋を訪れるといつもそのソファに座ってにこにこしていた。
そのソファに将臣はゆっくりと座った。
「なぁ九郎、お前、奏多に何日逢ってない?」
唐突に将臣はそう切り出した。
その言葉に九郎は頭の中で考えを巡らせる。
最後に奏多の花のような笑顔を見たのはいつだったか、と。
そして答えに行き当たった時、顔を顰めずにはいられなかった。
「五日ほどか…奏多からは何の連絡もない」
「そっか…やっぱ九郎もそうだったか」
「俺も“そう”とはどういう意味だ?」
九郎が尋ねると、将臣はばつが悪そうに答える。
少し遠慮しているかのようにも感じられる。
「ほら、俺たち家も隣同士だし、あっちの世界に行くまではほとんど毎日のように顔を合わせてたんだよ。こっちに帰ってきてからもずっとそうだったろ?」
将臣に言われて九郎は頷く。
確かにこちらの世界にきてからつい最近まで二日以上将臣や譲、そして望美に会わない日はほとんどなかった。
何処かへ出かける、というわけではなくても近所で会ったり家に遊びに行ったりと交流は常にあった。
奏多と会わなくなってからも望美とはよく会った。
「あっちの世界では側にいないことの方が多かったけど、こっちの世界で五日も奏多に会わないなんて初めてなんだよ。それどころかあいつは多分ここ数日家から一歩も出てない…」