神と人の綾なす物語
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
俺は紗綾の言葉に絶句した。
紗綾がやっと通れそうな大きさにしか見えない隙間を、俺に通れというのだ。
本当に無茶苦茶だ。
「んー…ものは試し、だね。さ、アシュ、行ってみよ」
紗綾に背を押され、俺は岩壁と隙間の前に立つ。
屈んで中を覗いてみるが、中は闇が広がるばかりで、その先に何があるのかはさっぱり分からない。
「ほーら。さっさと行く!!アシュには時間がないんだからね」
俺の気持ちなどまるでお構いなし。
おまけに質問する暇さえ与えてもらえないまま、俺は隙間に体を滑り込ませた。
視界は相変わらず開けない。
真っ暗闇の中を、俺は手探りで一歩一歩と前進した。
「アシュー、大丈夫ー?つっかからないでね?」
俺のすぐ後ろからついて来ているのか、紗綾の声は意外に近くから聞こえた。
衣擦れの音が聞こえて、何故だか妙に安心する。
ただひたすらに前進を続けていると、徐々に視界が開けてきた。
どうやら狭き道の終わりが近いらしい。
差し込む太陽の光に、俺は目を細めながらも歩みを止めることはしなかった。
「……っ!!」
小さな抜け道を出ると、目の前には広大な草原が広がっていた。
更には色とりどりの花が咲き乱れ、細い木々の隙間からは鳥たちの囀りさえ聞こえてきた。
花の名には疎い方なので分からないが、とにかくその景色は圧巻だった。
こんなにも雄大な景色を持つ場所が常世にあるとは知らなかった。
皇が大切にしている碧の斎庭にも引けを取らぬ美しさに、俺もついつい見惚れてしまった。
「紗綾、此処は一体…?」
「んー、私もよく知らないの。森を散策してたら偶然見つけてさ。アシュの息抜きの場所に丁度いいと思ったから、教えてあげようと思って。気に入った?」
俺の妻は、事も無げに、小さな子供のような悪戯な笑みを此方に向けてくる。
どうやら俺が不覚にも少々感動してしまったことを、ばっちりと見抜いている紗綾は勝ち誇ったような顔をしている。
よほど嬉しいらしい。
「あぁ、気に入ったさ。仕事から逃げてもリブやサティには見つからなさそうだ」
仕事から逃げたりはしないが、紗綾の功績を讃える表現としては十分だったらしい。
彼女は満足そうに頬を緩めている。