幼馴染みと恋人の境界線
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でも、涙は溢れなかった。
私はあの世界に呼ばれることによって涙の流し方を忘れてしまった。
皆が笑って、幸せを手に入れる運命の為の代償として。
でも、それを得るために私が差し出した対価としては安過ぎるような気がする。
私は後悔なんてしていない。
これでよかったんだって思うから。
私はせっかく将臣と二人きりで京都までやってきたのにこれ以上重苦しい雰囲気でいるのが嫌で、私は曖昧に笑った。
うまく出来ないのは分かってた。
今のぐちゃぐちゃの心のままでは本当の笑顔は作れないんだってことくらい。
私は将臣から視線を逸らして、清涼寺を彩る赤や黄に染まった紅葉を指差した。
見事なほどに色付いた葉は、夕日を反射して更に赤さを増していた。
赤にはあまり良い思い出のない私だったけれど、今日のこの紅葉はとても美しいと思った。
今までに見たどんな紅葉よりも。
「ね、将臣見て。紅葉、すっごく綺麗に染まってるよ」
私はその言葉の次の瞬間には温かい感触に抱き締められていた。
とても、懐かしい。
とても、大好きな。
将臣の逞しい腕の中に痛いほどきつく、きつく抱き締められる。
体が、心が苦しくて、うまく息が出来なかった。
「…将臣…苦しいんだけど…」
私が小さく声を上げても、将臣はますます腕の力を強めるだけだった。
こんな風に抱き締められると、どうしてもあの世界での、あの抱擁を思い出してしまう。
将臣は還内府として、私は応龍の神子として。
幼馴染みという幼くちっぽけな関係に終止符を打たなければならなくなったあの冬の日。
重すぎる肩書きに縛られていた私たち。
でもそれを投げ出すことは出来なかった。
それ以上に大切な人がこの世界には多すぎた。
私も、将臣も。
全てを捨て去るには私たちはあまりに大きなものを背負いすぎた。