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1章 

 アナウンスと飛行機の音。
人の群れを掻き分けて外に出れば、薫風が黒髪を揺らした。
「Wow……ここが、日本……!」
期待に満ちた青い瞳が日本の空を映して輝く。
「ええと、まずは……」
見るもの全てが、彼女にとって新鮮だった。
初めての日本。興味を惹かれないわけがない。
よし、と意気込むと彼女はキャリーケース片手に歩き出した。

____

 どこ悲しげな笑みを浮かべながら写真について語るカナタに恋は黙り込んだ。
昨日出会ったばかりだから当たり前ではあるが、自分はまだ何もカナタのことを知らない。
こんなにも胸が高鳴るくらい、彼に恋をしているのに何も知らない。
だから、カナタをもっと知りたい。大好きな彼の力になりたい、と恋は思う。
だから、気付けば恋はカナタに手伝いを申し出ていた。
幸い、鎌倉の地理には覚えがある。これならきっとカナタの役に立てるはずだ。
「……どうして、レンはそんなに親切なんですか?」
皆んな親切だと、日本はすごい、とカナタは言う。
勿論、単純な善意はあるだろう。
けれど、恋がカナタに優しくするのは……
「どうして、って、それは____」
「……!」
 ピンポーン、とインターフォンが鳴った。
生憎、今家にいるのはカナタと恋の2人だけで、どちらかが出るしかない。
「ボクが出ます。多分、ボクが出た方が良いので」
「うん?そっか、わかった。」
カナタの言葉に恋はこくり、と頷いた。
日本に来たばかりのカナタを訪ねる日はいなそうだが、もしかしたらイギリスからの荷物だとかそう言ったものかもしれない、と恋はカナタの背中を見送る。
が、直後消えたカナタの驚いたようなの声と、ガタン!と何かが倒れたような音を不思議に思い、転びでもしたのだろうかと慌ててカナタの様子を見に行った恋は、また違った意味で驚愕することになった。
「カナタ!I wanted to meet!(会いたかった!)
親しげな様子で、床に倒れているカナタに抱きつく黒髪の少女。
「Me too。But、Please leave(ボクもです。でも、離れてほしいです)」
カナタは驚いてこそ言うものの、その顔に嫌悪はなかった。

____むしろ、どこか嬉しそう……?

恋がモヤモヤしたものを胸に燻らせながら2人の間に入れず、黙って見ていると、あろうことか少女はカナタの頬に唇を寄せた。

「なっ……⁈」

流石にこれは見過ごせなかった。
いきなり、キスをするだなんて。
恋は少女の腕をぐいっと引っ張ると、必死に得意なわけでもない英語を模索する。

「えっ、と、Who are you⁈(貴方は誰⁈)」

拙い発音。むす、とした様子の恋に対し、少女はただきょとん、と首を傾げるとカナタを見た。
「Don't explain me?(私の事を説明していないの?)」
「Yes.sorry……(はい。ごめんなさい)」
少女はカナタと言葉を交わした後、今度は恋を見て、
にこりと笑顔を向けた後、流暢な日本語で言った。

「初めてまして。私はカスミ・リヴィトン……もとい、片桐夏澄です。」
「⁈リヴィトン……って、まさか……カナタの、家族……?」
「YES。レンにはまだ説明していませんでした。カスミはボクの妹です」
「い、い、妹⁈」

言われてからしみじみと見れば、確かに似ている。
日本人離れした整った顔立ちだとか、目元の形だとか。
カナタと違って、カスミの目はどこまでも澄んだ青だけれども。
「予定より、遅くないですか?」
「ごめんなさい。でも、やっと日本に来れたから、ついつい目移りしちゃって。」
「はぁ……やっぱり、ボクが迎えに行くべきでした。」
溜息を吐きながらもカナタの顔は穏やかで優しい手付きでカスミの頭を撫でている。
2人は本当に仲が良い兄妹だと、恋でもわかった。

___恋人じゃなくて、良かった

と安堵した恋だったが、ふと、カスミが持ってきたであろう大きなキャリーケースに目が留まる。
まるで、長期滞在するかのようなたくさんの荷物だ。

「あの、もしかして貴方も……?」
「?ああ、yes。私も今日からここで兄さんと一緒にお世話になります。よろしく」

ぺこりとお辞儀をするカスミ。
まさかの片想いする相手の妹との共同生活に恋は思わず眩暈がした。
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